あさひ病院 猪田先生
――先生のご専門領域をお教えください。
元々整形外科の専門医として活動し、リハビリテーションの重要性に気づいたところからリハビリテーションでも専門医を取得しました。運動器の中でも特に関節が得意であり、関節を含めたリハビリテーションを専門領域としております。
――これまでの略歴をお教えください。
私は名古屋大学医学部を1968年に卒業して、長野日赤などへ赴任、その後名古屋大学へ戻り、関節や関節軟骨の研究で博士号を取得しました。
取得したのち名古屋大学病院で臨床業務に従事しつつ、国立大学の医療技術短期大学の理学療法学科・作業療法学科の設立に関わり、1997年にリハビリテーション科の4年制化や大学院の設立も行いました。
その後は名古屋大学医学部保健医療学科で教授として、学生の指導も長い間担当しました。定年を迎えてからは、繋がりを元に現在のあさひ病院に在籍し、整形外科手術や介護支援事業の立ち上げ、大学での転倒予防学講師もしております。
―― リカバルを使って研究されようと思ったきっかけは何ですか。
日々の臨床で、手術後の患者さんに生活指導が行き届かないことに課題を感じていました。
今まで退院後の生活指導に様々な工夫をして行ってきましたが、定着や改善を図ることが大変難しかったです。外来で通院した際に、一方向のコミュニケーションとなってしまうことが問題点だと考えていました。
また介護予防事業で高齢者と接していると、身体機能の個人差が大きく、活動量にバラつきがあることが明確にわかり、さらに課題感を強く持ちました。
”筋トレ”といっても認識に違いがあり、体力の範囲内で行う方もいれば、体力へ挑戦して行う方もいるので、それぞれに詳細をヒヤリングする必要があります。
その中で今回ウェアラブル端末やアプリケーションを用いて、双方向のコミュニケーションが取れる経過観察ができると思い利用を開始した運びです。
――リカバルを使った研究の概要について教えてください。
人工関節手術後の退院した方へリカバルを導入しています。
主に股関節と膝関節の人工関節手術をした方々へ、ウェアラブル端末装着群・電話介入群・介入なし群の3つに分け、担当理学療法士がそれぞれ週1回3分の介入を8週間行い、ロコモティブシンドローム度や日常生活行動に変化があったかを比較検証しています。
遠隔で診療するというよりも、新しいリハビリテーションの局面を提案するといった気持ちです。
遠隔診療系サービスは報酬が実臨床よりも安くなってしまう傾向があり、クリニックとしては減収になってしまいます。そういった点を補うように、介入が診療報酬に組み込まれるように研究を進めていきます。
―― リカバルを研究につかってみて良かったことを教えてください。
手術後の方々に対して、遠隔で活動量の把握が出来る点が大変良い所になります。
今までは病院に”来ている方”に対して生活指導を行っておりましたが、リカバルでは”在宅で生活している方”に対して指導を行います。
今まで無かった視点での介入が出来るようになったことは、患者さんへも新しい価値を提供できるということです。
実際に患者さんからは「通院せずに疑問に思ったことを聞くことが出来るため便利。」や「専門家と気軽にコミュニケーションが取れるため、運動のモチベーションが上がる。」などの声も聞くことが出来ています。
その点を考えると、今回の研究が日常生活にも反映されることになるため、大変良いことだと思っています。
――今後医療分野で成し遂げたいこと等がございましたらお聞かせください。
介護予防事業などに関わっていると、やはり患者さんが日常生活でどのくらい運動できるかが重要です。
今回リカバルの研究において、研究対象期間が終わっても「ウェアラブル端末を使いたい」という方もいます。運動への意欲が上がっていることは嬉しいのですが、運動に対して”やる気がある人がさらに運動をする”といった印象です。
運動に対して”あまりやる気のない方が運動する”ように行動させることは、これからも課題であり、如何に行動変容を起こさせるか考えないといけません。
今回の研究を初めとして、ウェアラブル端末やアプリケーションを用いた日常生活・QOLについての研究はまだ世に少ないです。研究を進めつつエビデンスを確立していき、診療報酬として認められるように取り組みたいと考えています。
双方向でコミュニケーションが取れる中で、より患者さんの生活を中心にした治療を目指していきます。病院には必要な時だけ来る。直接病院に来なくても医療サービスを受けることが出来る。日常生活に沿って転倒予防などの治療やアフターフォローができるように普及していきたいです。